Eテレ:パンデミックが変える世界 ◆ユバル・ノア・ハラリEテレ:パンデミックが変える世界 ◆ユバル・ノア・ハラリ

民主主義への挑戦

私たちは今、新型コロナウィルスが世界を変える、歴史上の決定的な瞬間にいると思いますか?

その通りです。今歴史の変化が加速する時代に突入しようとしています。

1ヶ月から3ヶ月の間に、私たちは世界を根底から変える壮大な社会的政治的実験を行うことになるでしょう。例えば雇用市場です。コロナ危機で組織労働者のさらなる弱体化が進むかもしれません。インターネットで仕事を請け負うギグ・エコノミーで働く人には、組合もなく保護を受けられません。このような人が増えるか、その逆もあります。そして多くの企業が、政府に救済策を要請しています。

この緊急事態において、自由市場にだけ頼ることができないのは誰の目にも明らかです。一部の国は、経済システムと雇用市場を、より良いものに作り替える良い機会となり得るでしょう。私たちは選択肢が数多くあることを理解すべきです。そしてそれらは政治的選択です。これは事前に決まっていることではありません。ウィルスが私たちに代わって決断をするわけでもありません。それは政治家の仕事であり、政治家を監視する市民の仕事です。

メディアと一般の人たちにはウィルスの流行にだけ関心を持つべきではないと言いたいです。今日は感染者が何人だったとか、病院に何台の人工呼吸器があるといった話は重要ですが、政治状況にも焦点を当てるべきです。

これから見る人権力について伺います。このような緊急事態で、政府はこれまで以上の権力を手にすることができます。これは何を意味するのでしょうか?

 全体主義的な体制が台頭する危険があります。ハンガリーが良い例です。形式的にはハンガリーはまだ民主国家ですが、オルバン政権は独裁的ともいえる権力を握りました。

それも無期限の独裁的権力です。緊急事態がいつ終わるかはオルバン首相が決めます。その他の国にも同様の傾向があります。非常に危険です。

通常民主主義は平時には崩壊しません。崩壊するのは決まって緊急事態の時なのです。

ウィルスの流行と戦うと言う口実を使った政治的クーデターでした。実際首相が議員の健康を守るために、議会を閉鎖すると言いました。とんでもない話です。

幸いにも、国民やメディア、対立する政党から大きな反発があって、首相は閉鎖を撤回しました。議会では再開され、非常事を乗り切るための大連立工作が進んでいます。しかし一時は、イスラエルがハンガリーのようなコロナ独裁国になる危険もありました。コロナウィルスと戦うと言う口実の独裁制です。

1人の人物に強大な権力を与えると、その人物が間違ったときにもたらされる結果は、はるかに重大なものになります。独裁者は効率が良いく迅速に行動できます。誰とも相談する必要がないからです。

しかし、問題を犯しても決して認めません。間違いを隠蔽します。メディアをコントロールしているので、隠蔽するのは簡単だからです。他の手法を試すのではなく間違いをさらに進化させます。そして責任を他の人に転嫁します。そうやってますます権力を強化していきます。そしてさらに間違いを重ねていくのです。

民主主義に大切なのは、政府が間違いを犯したときに自らそれを正すこと、そして政府が間違いを正そうとしないときに、政府を抑制する力を持つ別の権力が存在するということです。

イスラエルでは1948(第一次中東戦争)に出された緊急事態の宣言がまだ続いています。多くの緊急命令がいまだに法的に有効です。緊急措置が適用されるのは危機の間だけで、危機が去れば、いつも通りに戻ると思いがちですがそれは幻想です。緊急時だからこそ、民主主義が必要です。チェック&バランスが維持されなければなりません。政府を権力につながる人だけでなく国民すべてに奉仕させるために監視が必要なのです。

イスラエルは緊急事態のときに情報をどのように扱っているのでしょうか? イスラエルは治安機関に監視技術の運用を容認していますね。

大変憂慮すべき事態だと思います。特にそれを行っているのが治安機関だからです。私は監視を支持しますが、このタイプの監視は警察や秘密警察に依存しないように神経をとがらせなければなりません。それは独立した保険部門の機関が実施すべきです。警察とのつながりがない機関です。

私は監視には反対をしていません。むしろ感染の拡大を食い止めるために、新しい技術を利用することは賛成しています。しかし監視は政府だけでなく、一般市民にも2つの方法で力を与えるべきだと思います。第1に私自身他の人々の身体の状態に関するデータを政府が集め、密かに保管する事は許されません。私には自分の健康状態に関するデータにアクセスする権利が与えられるべきです。私自身の健康管理についてより良い判断を下すためにです。また、自分の健康データにアクセスできれば、政府が採用している政策が有効か否かを、自分の身をもって試すことができます。これがイランのように全体主義的な国家だと、死者の数や今回の感染症拡大に関して、国が信用に足るデータを公表しているかどうかさえ国民は知る由もありません。データは透明性を確保されるべきです。

そしてもう1つ政府の決定にも透明性がなければなりません。私は自国の政府の決定を監視できなくてはなりません。アメリカの交付金の配布状況を例にとりましょう。政府は先月2.2兆ドルの救済策を決めました。ではその交付金を受け取るのは誰でしょう。私がアメリカの市民権を持っていたら、こうしたお金がどこへ行くのか、この金をもらえるのは誰で、もらえないのは誰なのかを監視する力が欲しいと思うでしょう。ですから監視は両方向ですべきです。これが市民が持つべき力です。このような情報にアクセスできれば、市民はより大きな力を持つと言うわけです。そしてもし社会的距離を取ることや、手を洗うことの必要性を納得してもらいたいならば、市民を適切に教育し、信頼できる情報を提供した上で市民が自らの意思で正しく行動してくれると信頼するほうがずっと良いやり方です。

権威主義的、独裁的な監視に代わるものとして、民主的な監視が可能だと言う研究者がいます。民主的な監視と言う言葉は自己矛盾ではないですか?

そんな事はありません。十分な知識を持ち自分自身の動機付けを持つ国民は警察力に頼る国民よりもはるかに効果的です。これは緊急事態においても同じことがいえます。例えば今回の危機で非常に重要な行動となった手洗いについて考えてみましょう。数億の国民に手洗いを矯正するには2つの方法があります。1つは、定款又はカメラをすべてのトイレに配置することです。国民を見張って手を洗わなかったら罰すと言うやり方です。

もう1つのやり方は学校で良質の科学教育を通じて、ウィルスや細菌について理解させることです。手を洗うことでウィルスや細菌を殺したり洗い流したりできるとメディアを通じて説明するやり方です。その上で正しい判断をすることを国民に委ねるのです。誰の目にも明らかだと思いますが、今回の危機においては教育や個人的な動機付けの方が、トイレに景観を配置するよりははるかに有効です。それはウィルスと戦う他の方法にも当てはまることです。国民が進んで協力すればそのほうがはるかに効果的です。そのためには教育が必要です。そして政府が提供する情報を信頼できることが必要です。

私は監視を支持しますが、全体主義的な監視は支持しません。監視についてはそれが常に双方向に働くことを念頭に置かねばなりません。政府が国民の監視をするだけではなく、国民が政府を監視するという側面です。例えば政府が腐敗しないように監視する、良い政策に転換するように見張るといった具合です。独裁国家によっては監視が一方的なのです。政府が国民を監視して政府の決定は国民から隠す。そこから国民に伝わる情報はありません。それはとても危険です。私は双方向である場合にのみ監視を支持します。

信頼してもらう、あるいは信頼を回復するにはどうしたらよいでしょうか?  信頼は何もないところから生まれませんよね?

1つとても重要なのは、科学と研究機関への信頼です。ここ数年ポピュリズムを奉じ責任感に欠ける政治家たちが世界中に登場しました。そして意図的に人々の科学や大学研究機関への信頼をおとしめようとしてきました。一部の政治家は科学者に浮世離れしたエリートとのレッテルを貼り、権限を与えるなと主張しました。中には荒唐無稽な陰謀論を拡散した者もいます。ワクチン接種に反対したり、地球は平面だと主張する人まで現れました。しかしこの緊急事態に家にある科学者への信頼を覆すことが、どれだけ危険かはっきりしました。緊急事態に直面し幸いにもほとんどの国の人々や政治家さえ、科学が最も信頼できるよりどころだと感じています。

疫学の専門家からの感染症についての情報を、私たちは真剣に受け止めています。気候変動の研究者が温暖化について警告した時も同様の信頼を持って受け止めるべきです。

今の状態は市民に突き付けられた試練だと思います。市民の側にはどのような行動が求められますか? 何かを待っている余裕は無いはずです。

確かにこのような状況では市民にも多くの責任が生じます。1つは情報や行動のレベルです。信じるべき情報を慎重に吟味し、科学に基づいた情報を信頼することです。そしてこのガイドラインを実行すること。市民が科学的なことに従えば、緊急時に独裁的な手法を取る必要が少なくなります。これは非常に重要です。私たち一人ひとりの務めは、現在の状況や誰を信じるべきかについて知識をつけ、大学や保険省など、信頼にたる組織から出された指針を忠実に守り、陰謀論の罠に陥らないことです。

この危機的状況の中で市民に課せられた2つ目の務めは、政治状況に目を光らせておくことです。今この瞬間にも極めて重要な政治決定が行われています。この決定に参加し、政治家たちの行動を監視することがとても重要です。

この世界的なパンデミックが持つ意味とは何でしょうか?

人類はもちろんこのパンデミックを乗り越えることができると思います。私たちはこのウイルスよりずっと強いし、過去にもっと深刻な感染症を生き抜いてきた経験があります。その点に疑問の余地はありません。この感染拡大のインパクトが究極的に何をもたらすのかは、あらかじめ決まっていません。しかしそれは私たちにかかっています。結末を選ぶのは私たちです。もし自国優先の効率主義や独裁者を選び、科学を信じず陰謀論を信じるようになったら、その結果は歴史的な大惨事なるでしょう。多数の人が亡くなり、経済は危機に貧し政治が大混乱に陥ります。

一方でグローバルの連帯や市民的で責任ある態度を選び、科学を信じる道を選択すれば、たとえ死者や苦しむ人が出たとしても後になって振り返れば、人類にとって悪くない時代だったと思われるはずです。私たち人類はウィルスだけではなく、自分たちの内側に潜む悪魔に打ち勝ったのです。憎悪や幻想、妄想を克服した時期として、真実を信頼した時期として、以前よりずっと強く団結した種になれた時期として位置づけられるはずです。